day of start : 2000.9.17

塗装と仕上げ

塗装と仕上げについて

塗装の手順としては、まず面取りや小傷取りといった塗装前の最終仕上げをした後、コンプレッサーを使いガンで塗料を 吹いていきます。私はフィラーとかの目埋剤を使わないので、サンディングシーラーで塗装下地を作って(導管もシーラー で埋めます)、ラッカーで塗装をして終了です。シーラーは余り気にする必要はありませんが、ラッカーは天気の良い日を選んで塗装します。1回吹いては、乾燥させ、 また吹くの繰り返しになりますが、5~6時間も見ておけばよいと思います。私は1回に結構厚く吹くので、人によってそ のあたりは違ってくると思いますが。

塗装が乾けば(シーラー以上に乾燥時間を取る方が無難です)、耐水ペーパー、コンパウンドと磨きあげます。磨き終われば、ナット、サドル等の部品を製作し、ペグ、ブリッジピンなどを取り付け、弦を張って完成です。塗料の乾燥時間や、磨きの時間、微調整を考えると2週間以上は見ておく方がいいと思います。

塗装準備

塗装前に面取りをしておきます。サウンドホールは、指の腹をつかって、サンドペーパーで丸く仕上げます。ヘッド、 ヒールキャップなどはまず小刀で面取りをして、サンドペーパーで仕上げます。面取りができれば、塗装前の最終仕上げ にペーパーで細かい傷を見つけられる限り消しておきます。ペーパーを当てる時は基本的には裏にも木片などをあて、 傷のある場所だけでなく、その周辺も含め広い範囲でサンディングする方がいいと思います。傷や凹みの部分だけを意地になってサンディングすると、そこだけ凹んだり板が薄くなってしまったりします。特に 表板の場合、その厚みは音に影響が大きいですから、傷の深さによっては無理に消そうとせず、音優先で傷は目をつぶ ることが必要な場合もあります。

小傷が取れれば、塗装の準備にはいります。まず指板をマスキングテープで覆います。今回はブリッジを塗装前に貼 ってありますので、ブリッジもマスキングテープで覆っています。また、サウンドホール内に新聞を詰め込んで、中に 塗料が入らないようにします。
サンディングシーラー

コンプレッサーは日立のベビコン。容量30リットルですが、ギターの塗装に使うには50リットル以上は欲しいところです。 ガンは重力式のものを使います。奇麗に塗装を仕上げるなら、ガンも高いものを買うに越したことはありません。サンディングシーラーとシンナーは50:50で混ぜています。他の方のページをみてもだいたいその量でいってるみたいで す。ギターを作りだすと、塗料は結構たくさん使います。500ml入りとか小分けのものを使っていると結果的にかなり割高にな りますので、思い切って18リットル(いわゆる一斗缶)で買う方がお得です。

シーラーは塗装下地を作るだけでなく、導管を埋めるために吹いていますので、しっかり導管が埋まったかどうか確認しま す(実際には目視で確認することは難しかったりするんですけど)。今回の材料はメイプルですので、導管は殆どなく、 ネックのマホガニーとヘッドのローズウッドの導管が埋まっていればOKです。導管を埋めるのに一番苦労するのは、ロ ーズウッドでしょうか。以前ローズウッドのギターを作った(2本ほど続けてローズのギターを作りました)時は、かなり 苦労した気がします。

シーラーが乾けば(少なくても1日以上は置いておきます)、サンドペーパーで剥がしていきます。サンディングシーラ ーは柔らかい塗料なので、シーラーの厚みが残っていると、塗装の強度的にも、音的にも悪い影響が出るそうです。しかし、 完全には剥がしてしまうと、木地がラッカーを吸い続けて、いつまでも塗装が乗らなかったり、剥がしたところと剥がさない ところとで色ムラが出てしまったりします(どちらも経験有り)ので、ミクロのレベル(ちょっと言い過ぎ)まで剥がして おきます。

 

ラッカー塗装

下地ができれば、ラッカーを吹いていきます。比率はシーラーと同じで50:50です。リターダーシンナー (白濁防止剤)も持ってはいるんですけど、使いません。当日の天候さえ気を付けていれば何とかなりますし、音に関 係ないものは可能な限り使わないというのが師の教えですから。ラッカーは間を開けて何回も吹くことになりますので、柱に釘を一本打ってガンをかけられるようにしておくと便利で す。私はギターを右手で持って、左手にガンを持って吹きつけていきますので、胴を吹き終えて、ネックを吹くのに持ち 替える時にひっかけておけますし。

1回吹き終わる度に、写真の通りぶら下げて干しておきます(冬場は窓のそばは結露が出やすいのでよくないと思い ますけど)。吹きつけた塗装が乾けばまた上から塗っていきます。何回塗るかは、塗装の厚みによって違いますので、 回数は基準にはならないように思います(ちなみに私は1回の塗装がかなり厚いと思います)。塗ったあとの厚みの感じ でここまでと自分で判断するしかないのかなと思います。

塗装に複数日かける人もいますが、アマチュアではなかなか時間もとれないので、私は1日で塗り終えてしまいます 。塗り終われば、そのまま乾燥させますが、ラッカーは表面は乾燥したようでも、中はまだ乾燥していいない場合もあ りますので、ここまできたら慌てずに数日置いておく方がよいと思います。

塗装が終われば、乾く前に、ブリッジのマスキングテープは剥がしておきます。乾いてからノミで縁切りしてもいいの ですが(一回、剥がすのを忘れていてしたことがあります)、乾く前に剥がしておく方が楽です。ラッカーが乾けば、磨 きに入る前にマスキングテープの縁切りをします。しっかり切っておかないと、マスキングテープと一緒に塗料がはがれ てしまうことがありますので、丁寧に縁切りします。

ちなみに、○○しないように注意しましょうと書いている失敗は、殆どが私自身でやってしまった失敗だったりします。

塗装の磨き

塗装を磨いていきます。粗い耐水ペーパーで塗料の凸凹などを取って塗装面を平らにし、細かい耐水ペーパーでペーパ ーの傷を取って綺麗に仕上げていきます。耐水ペーパーを何種類使うかは人によって違うようです。私は塗装が薄め( 1回の吹き付けは厚めですが、吹き付け回数が少ない)なので2種類しか使いませんが(ペーパーをかけすぎると塗装が はげてしまう)、3種類以上使う人もいます。その辺りは塗装の硬さや塗装の厚み等によって異なると思いますので、 一概にどれが正解という答えはないように思います。

 

面が仕上がれば、ウェスを使い、コンパウンドで磨いていきます。パフで磨きをかける方もいらっしゃいますが、私は手 で磨く派です。あまり磨きに熱中しすぎると、摩擦熱で塗装がべろりと剥がれてしまうことがあります。たまには塗装面の 温度も気にした方がいいかもしれません。磨きの作業は、文章にすると簡単なんですけど、耐水ペーパーで面を出すのも、コンパウンドで磨くのもかなりしんど いんです。この作業した後は、指がいうこときかなくて、ギターを弾いたりはできません。写真は、裏板の半分まで磨い たところです。音響特性がどうとかは、よくわからないですけど、この深みのあると塗装はラッカーならではという気 がします。

ペグの取り付け

塗装面だけでなく、指板やブリッジもコンパウンドで磨いてやります。指板のインドローズは茶色っぽかったものが 黒光りするようになります。 ブリッジのホンジュラスローズは、光るようになったものの、茶系が強いからか、それ 程見た目の色は変わりませんでした。磨き終われば、サウンドホールから新聞紙を抜いてやります。耐水ペーパー終わった段階で抜いてもよかったんですけ ど、たまにコンパウンドかけて初めて見つける凸凹があって、耐水ペーパーに戻ってやり直しっていうことがありますの で、念のため磨き終わるまで入れておきました。

 ヘッドの木目の深みもいい感じじゃありません?話がそれてますね。ペグのノブが同じ方向を向くように目視で確認しな がら配置します。ノーブランド品ですが、機能的に問題がなかったので使ってみました。位置が決まれば、キリで木ネジを 打つ場所をマーキングし、木ネジを締め込んでペグを固定します。
ナット製作

次にナットを製作します。材料は象牙です。牛骨と象牙とタスクとetc.音に与える影響は各論あって私が論じる必要は ないと思いますが、自然物は工業製品と違い個体差が激しく、同じ象牙といっても固いものもあれば柔らかいものもあり (柔らかすぎるものは使い物になりません)、象牙だから音がどうというのはあまり意味がない気がします。ただ、磨き上げた時に浮き出てくる色と独特の網目は象牙ならではですので、ハカランダの木目模様と同様、その材でし か出せない見た目の美しさは、何物にも勝ると個人的には思います。材料に使う象牙は元々印鑑用にラフに切り出したも ののようで、かなり大きめです。サンドペーパーを使い、ナット幅に収まる厚みに落としていきます。

ベルトサンダーを使うと一気に減って楽なのですが、減らしすぎてまうことが多々あるので、私は手作業だけでしてい ます。ベルトサンダーを持っていないという理由も大きいですが(他所の工房に借りにいくのも面倒ですし)。ナットと サドルはベルトサンダーである程度まで減らしてから手作業で合わせこむのが楽は楽です。サンドペーパーとか平ヤスリ とかだけでは、なかなか減ってくれないですし。お金に余裕があれば買えばいいのではないでしょうか。

外形が整形できれば弦の溝を切っていきます。まず弦の位置を割り振ります。特製の定規みたいなの(stew-macとか で売ってるやつです)を使う方もいますが、私の場合、指板の幅は出来高合わせ(設計通りの幅に仕上がらない)にな るので、使いません(使えません)。また、ナット製作時は、弦を張ったままの方した方がやりやすいです。指板と弦の間に何か噛ませ、弦を持ち上げて おいて作業したり、ネックやヘッドの塗装面をタオルなどで養生して弦を横に外して作業したりしています。

巻き弦は針ヤスリ(細い丸ヤスリ)で削っていきます。ナットの溝の切り方が悪いと(角度とか、溝の形とか)、開 放弦で変な音がしますので、注意します。ある程度のコツは必要ですが、何回も経験すれば誰でもできるようになります。

ナットの溝切り専用のヤスリも売っていますが、高いですから(ワンセット8,000円ぐらい?)あえて買わなくても、細い 丸ヤスリで十分です(東急ハンズとか、大きい模型店とか手芸店とかで買えます)。 細いヤスリは、たわみ易く、簡単に 折れたりしますので、ナット切り専用のヤスリを使う方がかなり楽なんだろうと思いますが(使ったことがないので想像で す)、これも単に慣れだけの問題ですので、あえて高い道具を買う必要もないと個人的には思います。1、2弦(プレーン弦)は、目立てヤスリで溝を切ります。この段階では弦高は高めにしておき、完成後に実際に弾きな がら「もう少し低く」っていう感じに手の感覚で溝を少しずつ深くしてあわせていく方が安全だと思います。

弦の溝が切れれば、目立てヤスリなどで少し長めに切り落とし、平ヤスリやサンドペーパーをつかってぴったりの形にあ わせていきます。ナット溝の深さは巻き弦は1/2がはいるぐらい、プレーン弦はぴったりの収まるぐらいがいいようですの で、上部をヤスリやペーパーで削り、平ヤスリとかサンドペーパーとかを駆使して、面取りをして形を仕上げます。形が 仕上がれば、コンパウンドで磨きあげます。

 

ピン穴の仕上げ

ナットの整形ができれば、ブリッジ周りを仕上げていきます。まず、ブリッジピンの穴を仕上げていきます。私は基本的 にブラスピンを使います。ピンの穴は狭い目に開けてあるので、そのまま入れるとこれぐらい浮いてしまいます。黒水牛 の角の仮ナットも写ってますね。こんな感じで雑に仕上げた仮ナットを入れています。穴の大きさを、リーマーを使い手作 業で広げていきます。広くし過ぎないように、時々ピンを入れてみて広げていきます。

 

穴をあけただけでは、ブリッジピンの頭がおさまりませんので、ピン穴の口を整形します。小刀でラフに切り取ります。 刃物の入れる方向を間違えると、欠けてしまいますので刃を入れる向きに気をつけます。ここまで作ってくれば、そのあ たりの基本は身についていると思いますので、細かい説明は省略します。小刀でラフに整形できれば、半円で先のとがったヤスリ(名称を知らないので写真を見て下さい)で、綺麗な円に仕上 げます。口を広くすると、ピンが奥に入る分、また穴が狭くなりますので、リーマーで再び穴を広げ、ピンの頭をブリ ッジの中に収めます。
サドルの製作

次にサドルを仕上げていきます。かなり長いロングサドルだったので、合う象牙がありませんでした。大和マークさん で購入した牛骨を使います。象牙が独特の網目模様が特徴とすれば、牛骨は磨き上げた時の透明感がその特徴のように思 います。どちらがいいかは好き好きかなと思います。サンドペーパーを使いナットの溝に入るように厚みを落としていきます。平ヤスリで落とされる方もいます。結果的に 溝にぴったり収まればいいのですから、得意な道具を使われればいいと思います。溝に収まれば、サドルの底面がサドル 溝とぴったり合うようにサンディングして、実際に弦を張って弦高をみながら高さを落としています。

この段階では弦高は高めでいいと思います。ナット同様、実際に弾いてみて、弾きやすさと音を天秤にかけて微調整する ことになりますので。高さの調整ができれば、ブリッジの形にサドルを整形します。溝にサドルをはめこみ、実際の形を鉛 筆で転写して、半円ヤスリで整形していきます最後は弦の接する面を丸く加工していくのですが、せっかくなので最近主流の 形(弦によってナットの接弦部が異なるパターン。オクターブピッチが正確になるらしい)に仕上げました。

最終調整

このあとの写真は撮っていないので文章だけですが、象牙や牛骨の粉まみれになっていますので、コンプレッサーを使い粉 を吹き飛ばします(布等では綺麗にとれないことが多いです)。完成写真がこちらです。製作はこれで終了ではなく、弦の張力等でギターが多少変形しますので、それにあわせて微調整を おこない仕上げていくことになります。 微調整の余白を残したのはナットとサドルですが、ナットは実際に弾いてみて、少 しずつ下げていきます。満足できる高さになれば、巻き弦が1/2、プレーン弦が全部溝に収まるところまで、ナットの上部 を削り、再度面取りなでの整形をし直してから、コンパウンドでピカピカに磨いてやります。

サドルの調整は、しばらく弦を張っておくと弦高が変化してきますので、それを見極めてから調整していきます。弦を張っ てから弦高がかわってくる理由としては、ネックが起きてくるというのも多少はあるように思いますが、どちらかと言えば張 力で胴が膨らんでくる方が多いように思います。サウンドホール側が下がって、下腹が出てくるというより、表板がブリッジ を中心に全体に持ちあがってくるように感じます。

すごく単純に言うと、弦高を12Fで1mm下げようと思うと、サドルを2mm下げる必要があります。そうすると、サドルの頭はあ る程度出ていることが必要ですが、余裕を見過ぎて最終的に余りにもサドルが高くなってしまうのも不格好です。どの程度サ ドルの頭を出しておくかは、胴やネックの強度との兼ね合いになりますので、その辺りの強度は作り手によって異なりますの で、自分で経験して覚えていくしかないのかなと思います(私も未だによくわかりません)。

ギターは完成して弦を張ってからしばらく経つと(数時間~数日)音が変わってきます。その後、塗装後半年ぐらいでまた 音が変わってきます。どちらの変化も良い方にかわることが多いですが、完成時に鳴らないギターが、時間とともに急に鳴 りだすという夢のような話は、残念ながら無いようです。

あとがき

長かった。それが一番の感想かもしれません。途中、材料が足りなくなって製作を休んだ期間も含めて、約9か月。あとの 手直しやら調整も入れると、もっとかかってますね。最初の予定は6ヶ月だったんですけど、無理でした。最初にも書きまし たが、「ちゃんと材木からギターを作るプロジェクト」と命名して、木取りから可能な限り自分でする前提で始めましたが、 多分ここまで凝って作ることは二度とない気がします。

 実際には、シリアルNo.008でも同じように材から切り出しましたけど、工期は2か月半でした。 進歩するものです。

元々かなり不器用なので、丁寧に作ったつもりでも、失敗は数えきれないほど有りますし、また後で考えてみれば、 「あそこはこうした方がよかった」とか「製作の順番が明らかに違う」といったところもあり、反省点はかなりあるのですが、 現時点の集大成的な製作記にまとめることができたのかなと思っています。

手間暇かけた(1本目の7年かけたよりはましですが)ギターですが、音の方はどうなんでしょうねえ。自分的にはまだ望 む音には至っていないと思うのですが、モニターをお願いした知人から「胴鳴りが最高に気持ち良くて、毎日弾いていた」な んて報告をうけると、お世辞とは言え、素直に「努力が報われた」と、一人悦に入ったりしています。

さてこの先、何年ギター製作を続けるつもりなのか自分でもよくわかりませんが(木材だけは10年以上分持っていたりし ます)、もしまたいつか、私のhomepageやらblogやらをご訪問される機会がありましたら、取りとめもない私の無駄話にお付 き合い下さい。

それから、もし万が一、私のギターを弾く機会がありましたら、ぜひご意見をお聞かせ下さい。褒めてもらえば喜んでま た作りだしますし、厳しい意見を頂けばよりいいものを作るようがんばりたいと思います。

長々と一アマチュアの拙い製作記にお付き合いいただきありがとうございました。では、またいつか。

2010年4月1日 ”matsu”

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