day of start : 2000.9.17

側板の加工

側板の加工について

側板製作の難関はブロックの面出しだと、側板の曲げでしょうか。ブロックの接着面は、モールドの形がぴったりあってい ないと、ギターの形状の歪みや将来的な故障の原因になります。側板の曲げは、無理に曲げて割らないことも大切ですが、綺 麗な曲面に曲がらず、変な尖がりや直線的な部分を残してしまうと修正が大変ですし、修正不能となる場合も多いように思い ます。作業時間は、慣れれば1週間かからないと思いますが、最初のうちは余裕をみて2週間もあれば十分でしょうか。特にブロ ックをモールドの曲面と隙間なく合わせる作業は、慣れないと難しいと思いますので、あせらず作業した方が無難だと思いま す。側板は難しいとはいえ、失敗すれば割れる等、修正不能なすぐに結果が出、即材料をまた用意して、やり直しにはいりま すので、時間的にはそれほどかかりません。

ネックブロック・エンドブロックの切り出し

ブロックについても、木取りから行っていますが、ブロックの加工を行う際は、切り出し時点の直角が全ての基準となりま すので、切り出しや面の整形が非常に重要になります。費用対効果を考えると、既にブロック状に切断された材を購入する方 が(アイチ木材加工のブロック材などは、けっこう正確な直角が出ているように思います)効率的だとは思います。今回、ネックブロックに使用する材は、オークションで購入した、マホガニーの端材です。既に部品を取ったあとの残材で すが、十分ブロックを取れる大きさが残っています。厚みを揃えるのに自動カンナを通しますが、十分な長さが無いと自働カ ンナが通りません(短いと、お尻ではねて、大きくえぐれてしまいます)ので、長い状態で通します。ダブテイルが入る分の 厚みが必要ですので、30mmの厚みにしました。

厚みが出れば、ブロックの大きさを罫書きし、ノコギリで切断します。幅はネックのヒールを支えますので、ヒールより 大きく、高さは「ボディの厚み」ー「表板+裏板の厚み」+「胴削りで落とすであろう厚み」です。大きい分には削ればい いだけですから、ヒール部の胴厚分(側板から5mmぐらい顔を出すと思います)ぐらいでよいと思います。ネックブロックの木目方向は決まっていて、側板と平行の木目でとります。側板と垂直にとると、ダブテイルを押し込ん だときに、木目に沿って割れてしまう恐れがあります(ちなみに、ヴァイオリンなどはクロスで取ります)。切りだせれば 、カンナを使い、しっかり垂直が出ている面に仕上げます。

エンドブロックの切り出しも同様ですので、詳細は省略しますが、厚みは20mmとネックブロックより薄く、幅はネックブロ ックより広くなります。エンドブロックは木目方向の取り方は製作者によって異なっていて、ネック同様、側板の木目と平行 にとるとカンナがけしやすくなります。側板の木目と垂直にとると強度があがりますが、カンナがけで欠けやすいです。

ブロックの整形

整形できれば、ブロックのセンターを取り、モールドのRに合わせて、接着面の整形していきます。少し削ってはモールド に合わてみて、がたつきや隙間を確認しながら、小さいカンナで面を合わせていきます。アマチュアの場合、カンナがけで どうしても端を落とす(平面のはずが端が落ちて曲面になる)傾向にあるように思います。特に最後にカンナを抜く時に落と しがちですので、実際に削る面より、長いストロークをイメージして直線に引くことをイメージすればよいと思います。今気付きましたが、これって「接ぎ」の時に書いておくべきことでしたね。カンナの扱いに慣れるまでは、最後は上方向に抜 くイメージでカンナがけした方が、直線に近いラインで抜けるように思います。またカンナがけの際、木目と垂直に刃を入れま すので、どうしても欠けやすくなりますので注意が必要です。カンナで面が仕上がれば、サンドペーパーで接着面を整えます。

写真は、ネックブロックを合わせたところですが、ブロックのRがかなりきつくなっています。ここのRがきついほど、 ネック入れの時に接合部の面出しが大変になります。実際ネック入れの際、かなり手間がかかりました。モールドを作る時 は、この辺りも考慮する必要があり、今回の反省点のひとつです。蛇足ですが、アコースティックギターは直線に近くでまだ楽ですが、クラシックギター、接ネック合部のRが強めで(こ のギターほどきつくはないですが)、更にネック幅が広いのでネック入れの難易度はアコースティックギターより高くなり ます。

今回は手工にこだわりましたので、ダブテイル溝の切り込みのないブロックを接着していますが、他の製作者の方の話 を聞くと、接着前にダブテイルを彫ったブロックを貼りつける方が施工は楽なようです。手ノコとノミで仕上げることも 可能ですが、stew-macなどで溝が既に切られたブロックが売られており、それほど高価でもないので、それを購入するの も一案だと思います。

機械を活用される方は、テンプレートとルーターを使い、角材の状態で、複数の溝を彫り、溝切り後ブロックのサイズ に切断するのが効率的なようです。なお、胴に組んでからルーターで溝を掘る方法もありますが(stew-macなどでもそ れ用のジグを売っています)、万が一ルーターが暴走した場合、せっかく組んだ胴がおしゃかになったり、そこまでいか なくても修正に莫大な時間がかかりますので、機械を使い慣れていない方には不向きかもしれません。

側板の曲げ

ブロックが仕上がれば、側板を加工します。ネック部とエンド部で厚みが違うので、側板をテーパーに加工します。側板に 鉛筆で罫書き、カンナで削っていきます。削ったところを合わせて、隙間が無いくらい真っ直ぐに削れることが理想です。い わゆる双葉定規の理屈で、普通の定規よりも正確な究極直線です。わかる人にしかわからないような話ですね。テーパーに加工し終えたら、1晩水に浸します。いつものように、お風呂にゆっくり浸かってもらいます。浸ける長さは製 作者によって違うみたいですね。余り長くつけておくと、お風呂が檜風呂の匂いになります。

曲げには殆どの方がベンディングアイロンを使うと思いますが、私は古い人間なので、鉄管をガスで熱して使います。性 能云々より何より、コストが果てしなく安くつきます。大概1台はカセットコンロをお持ちだと思いますので、鉄管購入だけ なら、1,000円もかからないと思います。

まずは、胴のくびれから曲げていきます。表板に対して直角になるように曲げます。何故くびれからなのかの理由はわか りません。途中で何度もモールドにあわせてみて、曲げる位置、曲げ具合などを確認しながら作業を進めます。変にあわてると、側板の裏表や上下を勘違いして、誤った向きで曲げてしまうことがあります。業務用のホットプレ ス(!?)があれば直るらしいですが、手曲げで直すことは不可能に近いようなので、その辺りは慎重にします。

くびれができれば、次にボディラインを曲げていきます。ボディラインを曲げていくと、くびれが元に戻って開 いてきますが、癖さえついてしまえば、モールドに入れたとき曲がりますので、特に気にしていません。

曲げ終えれば、1日以上モールドに入れて側板に形を憶えさせます。メイプルは曲げる時に、しわがよったり、全体に 丸くならずに直線的に尖ったり、毛羽立ったり、木目にそって裂けてきたりと、どちらかと言えば扱いにくい材だと思い ます。特に杢のある材は癖が良くないので、無理に曲げず、ある程度時間をかけてのんびり曲げた方がいいと思いますが、白木 ですので、作業自体をのんびりしてしまうと、木肌に焦げ跡がつく場合があります。曲げていくのはゆっくり、作業は手早 くになります。

余談ですが、私の数少ない経験からでも、曲げだけならローズウッドの方が、遥かに楽です。その代り、フィラーを使わ ずシーラーだけで塗装下地を作った場合、ローズウッドは気孔を埋めるのが大変です(単に経験指数の問題ですが)。私は 師の「よい音を出すために、可能な限り余分なものは使わない」という教えを忠実に守って、フィラーを使わないのですが 、間違いなくフィラーを使った方が楽だと思います。

ブロックの接着

側板が曲がれば、ネックブロックとエンドブロックを接着していきます。側板は長めに切り出してありますので、切り 落とす部分を鉛筆で罫書きます。ヒール側はネックが入って隠れますので、多少短くてもOKです。ただし、ヒールキャップがバインディングより上に 来る場合は(パターンとしては、余りないと思いますが、Baby Taylorのようにヒールレスのギターなど)、合わせ部分 が見えますので、完全に合っていないといけません。

また、エンド側も今回のように飾りをいれる場合は、多少短くてもOKです。こちらも飾りを入れない場合は(ヴァイ オリン等ははいっていませんね)、ぴったりあっていないと、いけません。

切断するラインを鉛筆で罫書けたら、モールドに傷をつけないように、下に木を当ててノコギリで切断します。予想通り、 隙間があいてしまいました。隙間の部分は、後日、バインディングの溝を切る前に、トリマーのローラーが通る部分を埋め 木しました。埋め木しておかないと、欠けている部分だけ、バインディングの溝が深くなってしまいますので。

切断できれば、ブロック接着面にタイトボンドを満遍なく塗って、クランプでしっかり固定します。今回はモールドの厚 みが足りない分、たくさんクランプを使っていますが、普通はブロックの面が正確に出ており、かつ側板が綺麗に曲げられて いたら、1~2本のクランプで十分固定できると思います。あふれ出た接着剤は入念に掃除しておきます。場所的に接着剤が固まってしまうと、非常に取りにくくなります。もし硬化後、 接着剤が残っていた場合は、ノミで切除し、サンディングで仕上げます。掃除しておくのは、綺麗に仕上げるためだけでなく、 不要な接着材を取り除くことで、ブロックが隙間なく側板に密着ているかどうかの確認することができます。機能的には、全 接着面積の8割方密着していれば問題ないように思うのですが、一応手工品としては、99%の接着は必要かなと個人的には 思います。

もし、密着してない部分を発見した場合は、素早く取り外して、接着剤を洗い流し、乾燥後、面を作り直します。接着 剤が固まった後に発見した場合は、ブロックを切り取って、再製作、接着し直しになります。そうなるとかなり大変です ので、固まる前に見つけることが大切です。

 また、ブロックを接着してしまうと、胴の形状が非常に安定します。更に、ライニングを貼ってしまうと、モールドから 外しても、形状をほぼ完全に維持してくれます。逆にいうと、ブロックを貼った時点で、ボディに歪みがあることが、判 明しても修正は非常に困難、ライニングを貼ってしまうと、修正はほとんど不可能と言えると思います。ですので、ブロックを接着する前やライニングを接着する前には、側板がモールドの上面に対して、垂直が出ていること を確認しておくことが必要です(写真は、後で思いだして説明用に撮影したものなので、既にライニングが貼られています が)。

高級な手工ギターでも、側板が表板に対して斜めについていたり、真中が凹んでいるギターがありますので、自分のギター もそうならないように、しっかり確認しておきましょう。

ライニングの曲げ

側板とブロックが接着できれば、次にライニングを接着します。いわゆるのりしろです。ライニングを貼る部分の長さを実測し、 それより少し長めに切りだします。今回の場合、側板を650mmで切りだしましたので、ライニング材は、600mm(ブロックの幅と +α減の分を見越して)に切り落としました。厚みは4mm程度だったように思います(記憶が定かではありません)。曲げる前に側板同様、一晩入浴させました。切り込みのはいったライニングなら、水につけずにそのまま熱して曲げたり、お湯 だけで鉄管を使わずに曲げたりとかもできるのですが、今回は切り込みのないライニングにしたので、じっくり入浴させました。

側板同様、熱した鉄管を使い、全体に丸みが付くように、丁寧に曲げます。あわてて力を入れると、折れてしまいますのでゆ っくり丁寧に。後の作業で出てくるバインディングやパーフリングは、ライニングより更に折れやすいので、バインディング等 を曲げる練習にはちょうどいいのかもしれません。ライニングなら、折ってしまっても、次を簡単に切り出せますので。

ここからは余談になりますが、溝の入ったライニングは曲げるのは簡単なのですが、箱にする時に、溝に接着剤がはいりこ んでしまい、接着後に取り除くのに苦労しますし、取り除けないと見た目が汚いし、また力木をかける溝を切る時に簡単に 欠けたりしますので、あえて切り込みの無い物を使いました。曲げる手間と綺麗に曲がらないリスクは、溝無しの方が圧倒的 に高いので、そこは製作者の好き好きだと思います。また今回使用したのは、裏板のブレースと一緒に切り出したシダー材ですが、少し色むらがでてしまいました。完成後サウ ンドホールからよく見えるので、残念ながら、美しさに欠けます。見た目にもこだわった方がいいと思います。
ライニングの接着

ライニングが曲がれば、タイトボンド?をたっぷり塗って、モールドの形状をを利用して、クランプで締めて接着します。 側板との間に隙間があいても余程大きな隙間出ない限り、機能的には問題ない(クラシックギターなどで、三角のライニング を一片ずつはっていく手法もあることでご理解いただけるでしょうか?)のですが、隙間がない方が綺麗ですので、隙間があ かないように、しっかり固定していきます。ライニングの接着時の固定方法は、洗濯ばさみ、バネばさみ、クリップ、ミニクランプなどひとそれぞれです。自分で作業 しやすい方法を取られればと思います。今回の私の方法のように切り込みの無いライニングを使う場合は、モールドの形状を 利用しないと、側板がライニングに負けて変形しかねませんので、クランプを使う方法をお勧めします。

逆に、切り込みの入ったライニング(特に三角に既整形のもの)を使う場合は、クランプでは締める力が強すぎて、ライニ ングが潰れたり、変形したりしますので、バネばさみ等を利用した方が、無難だと思います。あふれた接着剤は固まるまでに綺 麗に拭き取り、隙間が無いかしっかり確認するのはいつもと同様です。作業は1日1本しか貼れないので、4日まるまるかかっ ています。他の作業と並行してする方が、 効率的だと思います。

ライニングが接着できれば、小刀で面を取っていきます。整形の有無と音に対する影響はよくわかりませんが、 前にふれたブロックの未整形同様、見た目が美しくないと個人的に思います。ライニングの未整形も、昔の安い国産ギター(昭和40年代とか)ではたまに見かけるのですが、かなり手抜きし てあるように見えて、安っぽさが倍増します。ある意味、接着剤の取り残しがあること以上に、見た目の値打ちが下 がりますので、手を抜かずに丁寧に仕上げます。面取りができたら、サンドペーパーで綺麗に仕上げます。

ライニングの整形ができれば、側板の内側の汚れ(接着材の垂れ等々)もサンドペーパーで綺麗に取り除いておきます。 側板が出来上がれば、次は表板、裏板を貼って胴に組んでいきます。

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